口唇・口腔・中咽頭がんに対する小線源治療に関して

口腔とは舌、口腔底、歯肉、頬粘膜、硬口蓋を含みます。口腔がんはがん全体のなかでは1~3%程度と発生頻度は低いのですが、年々増加しており日本では年間に約6,000人が罹ると言われています。痛み、しこり、腫れ、ただれ、出血、歯のぐらつき、口臭などの症状が出ます。
中咽頭とは、軟口蓋、舌根、口蓋扁桃、咽頭後壁が含まれます。中咽頭がんと診断される人数は1年間に10万人あたり約1人であり(*)、症状としては飲み込むときの違和感、咽頭痛、吐血、開口困難感、舌可動性の悪さ、耳痛、のどのしこりなどが知られています。
小線源治療は口唇・口腔・中咽頭がんに適応されますが、全ての患者さんに適しているというわけではありません。しかし、手術を希望されない方、あるいは手術が受けられない方は一度ご相談下さい。


小線源には低線量率線源と高線量率線源とがあり、いずれも口腔がん・中咽頭がんに用いることができます。低線量率線源としてはイリジウム(Ir-192)ヘアピン・シングルピン、や金(Au-198)粒子が使われることが多く、高線量率線源ではイリジウム(Ir-192)やコバルト(Co-60)が用いられています。高線量率線源の場合には線源を直接肉眼的に見る機会はなく、Remote After Loading System (RALS)という術者が全く被曝しないシステムを用いています。

●腫瘍の長径が4cm程度まで
●舌がんの場合、厚さは1cm程度まで。舌がん以外の場合、厚さは5mm程度まで
(それを越えても治療が可能な場合もありますのでご相談下さい。)
●術後断端陽性の場合

●隔離された治療病室での入院生活が困難(身の回りのことが一人ではできないなど)
●治療に対して同意が得られない
●妊娠中である

外来の診察にて適応があると判断され、また患者さんが治療に同意された場合に、まず舌がんの患者さんには小線源治療の副作用の一つである下顎骨骨髄炎を回避するためにスペイサと呼ばれる舌と下顎骨との間にスペイス(距離)をとるためのマウスピースを作成します。
●イリジウム(Ir-192)ピンを使用する場合
イリジウムピンを用いた小線源治療を行う場合には、治療病室入院当日あるいは翌日に鼻から経管栄養のためのチューブを挿入し、扱い方を指導します。線源挿入の際には唾液腺の分泌を抑えるアトロピンを注射した後、キシロカインを用いて局所麻酔を行います。麻酔の後にイリジウムピンを挿入するためのガイドピンを挿入します。X線透視でガイドピンの配置を確認した後に、イリジウムピンに入れ替えて、糸でイリジウムピンを止めて線源挿入は終了となります。線源挿入後にX線写真を撮影し、専用の線量計算ソフトを用いて適正な位置に適正な線量が照射されるための線源抜去日(線源挿入から4~7日後)を決定します。抜去予定日時に抜去した後は退院が可能となります。

●金(Au-198)粒子を使用する場合
金粒子を用いた治療を行う場合には、入院期間中も経口摂取が可能ですので、経管栄養は必要ありません。線源挿入時は唾液腺の分泌を抑えるアトロピンを注射した後、キシロカインを用いて局所麻酔を行い、適切な配置で専用の針を用いて金粒子を挿入します。その後、金粒子を抜去することはありません。使用した金粒子の個数によって入院期間が決まりますが、その日(開放日)がきたら退室(退院)が可能となります。


病気が早期(Ⅰ期あるいはⅡ期)の場合には、手術と同程度の治療効果が期待できます。治療後のがん残存や再発、頸部リンパ節転移を早期に発見するためにも、治療後は放射線科と紹介元の耳鼻咽喉科や頭頸部外科、口腔外科の定期的な診察に通うことが必要です。


●粘膜炎
線源を挿入して10日前後くらいから、線源を挿入した周囲に粘膜炎が出現し始め、3週間くらいにピークとなります。その後2~3ヶ月かけて治まります。

●口腔潰瘍
10日前後くらいから、線源を挿入した周囲に粘膜炎が出現し始め、3週間くらいにピークとなります。その後2~3ヶ月かけて治まります。
●下顎骨骨髄炎
下顎骨は放射線に弱く骨髄炎をおこします。舌がんの治療の際にはスペイサを装着し、また治療後の患側の抜歯は避けてください。
●二次がん
小線源治療後数年以上経過して、放射線が原因と考えられる新たながんが、生じることがあります。
このほかにも味覚障害や舌萎縮などが生じることがあります。